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菊次郎の夏





『菊次郎の夏』(きくじろうのなつ)は、北野武の監督作品。1999年公開。第52回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式参加作品。



あらすじ

小学三年生の正男(関口雄介)は、東京の下町で煎餅屋を営む祖母と二人で暮らしている。父親は正男が小さい時に他界し、母親は遠くに働きに出ていると祖母から聞かされていた。



夏休みに入ると、遊びに誘おうとした友達は家族と旅行、通っているサッカークラブに行くとコーチから「夏休みはやらないんだよ」と帰されてしまった。そんなある日、正男は自宅の箪笥から母親の写真を見つける。正男はいてもたってもいられなくなり、わずかな小遣いを握り締めて、豊橋に住んでいるという母親に会いに行くことを決意する。




しかしすぐに不良グループの男子学生3人にカツアゲされそうになるが、祖母の友人のスナックを経営しているおばさん(岸本加世子)が、ドスを効かせた声と派手な風貌で3人を追い払い、正男を自らの店に連れて行き、何故お小遣いを持ってどこかに行こうとしたか尋ねる。事情を知ったが、子供1人では心配なおばさんは、自分の旦那でチンピラ中年、菊次郎(ビートたけし)を正男に同行させることにした。ところが菊次郎はまっ先に競輪場へ行き、妻から預かった旅費どころか正男の小遣いもろとも使い果たしてしまう。最後のお金となった時に偶然正男が言った数字で大儲けする。2人は大きなホテルで泳いだり、菊次郎は正男に騎手のコスプレをさせるなど、それなりに旅行を楽しむが、結局正男の紛れ当たりだったため、資金が底を尽きてしまった。




道中、乗車したタクシーの運転手がトイレに降りた隙に車ごと奪ったり、宿泊したホテルの料金を値切り倒したうえにフロントマンに車を出させたり、ヒッチハイクを強要しようとしてトラックドライバーと喧嘩になったりと、菊次郎の傍若無人な振る舞いはとどまることをしらない。しかし、正男が幼い男の子が好きな変質者に言葉巧みに公衆トイレに連れて行かれた際には、正男を必死に探し、無理矢理正男のブリーフを下げようとしているところを間一髪で見つけ出し、変質者が気絶するまでボコボコに殴るなどの愛情が芽生え始めた。




途中、親切なカップルの車に半ば強引に乗り込む二人だが、正男の旅の目的を知ったカップルと打ち解け、正男は彼氏にジャグリングを見せてもらったり、彼女と会話し、一日遊んでもらう。その後古びたバス停でカップルと別れるが、バスは来ず、ヒッチハイクさせてくれる車も捕まらず、無一文の二人は古びたバス停の待合小屋で野宿するしかなかった。




通りがかりの車をパンクさせ、修理を手伝うことで恩を売って車に乗せてもらおうと画策した菊次郎だったが、タイヤに細工しようとしているところをワゴン車の持ち主の男に見つかってしまう。ところが車で詩を売りながら日本中を旅してまわっているという小説家志望の男(今村ねずみ)は殊に親切で、二人の旅に共感し、正男の母親の暮らす家の近くまで送ってもらうことができた。今夜は母親の家に泊めてもらうのだと、正男の顔もほころぶ。




ところが、尋ねた住所の家の表札は母の姓とは異なっており、二人に一抹の不安がよぎる。菊次郎が「1人で見てくる」と正男をわざと遠くに置くが、玄関から写真で見た正男の母が家から出てきた。状況を悟った菊次郎は正男に見せないようにと正男の元に走るが、すぐに幼い女の子と見知らぬ男性も楽しそうに家から出てきた。二人が立ち尽くして見ている先でその父子は遊びに出かけてゆき、正男の母は微笑みながらそれを見送った。正男の母は父と死別後、祖母に息子を託し、過去を忘れるために新しい土地で新しい家庭を築いていた。正男の母は二人に気付くことなく家の中に消えていった。



正男は肩を落とし、角を曲がると菊次郎に背を向けて涙を流した。菊次郎はただひたすらとぼけながら「違う家だったみたいだな」と慰めた。菊次郎は野宿の最中に、正男が理由はどうあれ「母親に捨てられた」と気付いていた。小さく「こいつも、俺と同じか…」とつぶやいていた。




正男は母との再会を果たせない無念から涙が止まらない。菊次郎は近くの浜に正男を待たせ、もう一度あの家で母親の引越し先を聞いてくる、ときびすを返す。さりとて何のあてもなく公衆便所の前で佇んでいると、置いてあるバイクのハンドルに結ばれた、天使の形をした鈴が目に入った。菊次郎は戻ってきたバイカーの二人(グレート義太夫、井出らっきょ)から半ば強引に、お守りだというこの鈴を譲り受ける。浜に戻った菊次郎は、海を見つめてうなだれる正男に「母親は引っ越した。正男が尋ねてきたらこの鈴を渡すよう言われた。」「苦しい事や悲しい事があったら、鈴を鳴らすと天使が来て正男を助けてくれる。」と嘘をつき、母のくれたお守りの鈴に願を掛けるようにと精一杯正男を慰める。正男に「天使くるだろ?」と青空を眺めるが、正男は「わかんない」と俯いてしまった。




菊次郎は正男を元気付けようと神社の夜祭に立ち寄るも、夜店で金をたかったり金魚を持ち逃げしようとしたりと、またも傍若無人に振る舞い、ついには的屋の用心棒に袋叩きにされてしまう。何もかもうまくいかず、血まみれになって消沈する菊次郎。逆に慰めるように菊次郎の顔を拭ってくれる正男に菊次郎は感極まるも、力なく「ごめんな」とつぶやくことしかできなかった。




放浪同然の旅となった二人だが、ひょんなことから小説家志望の男と再会する。男は二人の旅の顛末を聞くと、菊次郎を呼び出し「一緒に遊びましょう。子供が、可哀想ですよ。」と2、3日キャンプでもしようと提案する。川原でキャンプしていると、菊次郎に鈴を奪われたバイカーの二人もやってきて、4人の大人は子供に帰ったように正男とスイカ割りや、だるまさんがころんだを真剣に遊び、楽しいひと時を過ごした。




そんな中、菊次郎は正男と同じく、幼い頃に自分を捨てた母親が入所する介護施設が近くにあることを知る。菊次郎は正男を優しいおじちゃんたちに預け、施設を訪ねるも、年老いてさらに介護士らに毒を吐くがどこか寂しそうに車椅子に乗る母に声を掛ける勇気はなく、正男と同様、遠くから眺めていることしかできなかった。




楽しいキャンプも終わり、元気付けてくれた大人たちとも別れ、それぞれがそれぞれの生活に戻っていった。帰ってきた東京の下町の川辺で、菊次郎は「またお母さんを探しに行こう」と正男を抱きしめる。別れ際、正男は立ち去ろうとする菊次郎に初めて名を尋ね、菊次郎ははにかみながら「菊次郎だよ!」と名乗った。菊次郎に微笑みかけてから天使の羽根がついたリュックを揺らしながら走り去る正男を、菊次郎はいつまでも見送っていた。

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